受賞者のその後

経済産業省商務情報政策局長賞を受賞された制作者とその関係者の方に受賞の経緯やその後についてお話をお伺いしました。

白木 滉平さん

藤田 祐也さん

千葉県立一宮商業
高等学校の皆さん

香川県立坂出商業
高等学校の皆さん


 受賞作品:日本語表計算ソフト 青葉 第二版 (学習&教育)
 作品概要:
 誰にでもわかりやすいように初心者が使うであろう機能を極限まで検討・選別し、関数をはじめ
 様々な機能の日本語表記に徹底的にこだわって作成した表計算ソフト
 作品の詳細はコチラ




― どのようなきっかけでプログラミングに興味を持たれたのでしょうか?またビジネススキル部に入ったきっかけを教えて下さい。
(小林高大さん・情報処理科 3年)
入学当時、私はコンピュータに関することはすべて初心者だったので商業学校にせっかく入ったのだからコンピュータに詳しい人になりたいと思い、この部に入ろうと思いました。

(川北耀平さん・情報技術科 3年)
私の父がSEでその仕事の影響からプログラミングに興味があり、ビジネススキル部に入部しました。

(多田信彦さん・情報技術科 3年)
私は部活を決めるときに親と話していて、今からの時代は情報やそれらに関することが進んできて役立つ。しかも、検定をたくさん取得できるし一石二鳥なのではないかという結論に至ってこの部に入部しました。

(山岡優さん・情報技術科 3年)
小学2年生のころに学校で初めてパソコンに触れて、何でもできる面白い機械であることに気付き、小学6年のころからソフトを作りたいと思うようになりました。当時はVBやCなどという言語は英語であることから敬遠していて、日本語プログラミング言語の「ひまわり」(クジラ飛行机様制作)を使い、サンプルを動かしたり自分で作ったりしている中でプログラミングを独学で学びました。
ビジネススキル部に入ったきっかけは、小学・中学ともにコンピュータ部に所属していて、高校でもそれに類するような活動をしている部活動に入りたかったからです。

― チームで作品を制作するにあたり、難しかったことや良かったことはありますか?
(小林高大さん)
1人で作っているわけではないので、自分勝手に作業を進めていたりすると全く違う方向へいったりして、チームで1つのものを作ることの大変さを学びました。

(川北耀平さん)
チームで開発する過程で意見の衝突はもちろんありました。しかし、衝突し、熱意をかけたものだからこそ良い物も作れた実感はあり、何より違う価値観や感性を感じ取れたことはとてもいい経験になりました。

(多田信彦さん)
作品は複数人で作成するものなので、メンバーと話すことも当然多くなります。そのようなやり取りの中でコミュニケーションがいかに難しいかということが学べました。また、それぞれ考え方の違いなどがあるのでとてもいい刺激になりました。

(山岡優さん)
チームで作品を作るには、チームをまとめることも必要です。チームリーダーとしてこの責任を果たすことはとても難しいことでした。個々のメンバーが持つ能力を最大限に活用して、少しでも良い作品を作る。私は人には必ずどこかにいいところがあると考えています。パソコン操作やプログラミングが苦手でも、デザインが得意だったり絵を描くのが得意だったり。メンバーのいいところを見つけて生かすのがチームリーダーとして大切なことなのではないかと考え、必死にそれを見つけられるよう取り組みました。そしてできたものをチェックして、修正をしたり改良を加えたり。必ずしも楽しいことの連続ではありませんでしたが、メンバー全員が苦労を重ねたことでこのような大きな作品が作れたと思っています。
チームで作品を制作してよかったことは、コミュニケーション能力が養えたことです。チームで開発をすれば、他の人に見てもらうことでフィードバックをしてもらうことができ、さらに多くの考えを持った人と共に過ごすことになるので、自分の足りないところ、勉強すべきところに気付いたりします。ここで培ったコミュニケーション能力は、面接の時にも役立ちました。

― 今回の入賞を受けて今後どのような作品を作っていきたいですか?
(川北耀平さん)
今回、他の作品のプレゼンを見て自分では考えつかないようなアイディアを用いた作品が多くありました。そして、そのアイディアに感化され私も多くのアイディアが浮かんできました。今回の作品の欠点としては完成度がまだ未熟だったという点がありましたが、完成度は時間があれば高めることができると思います。いろいろなアイディアにチャレンジする時間というのは今しかいないと思うので、誰も思いつかないようなソフトを考えそれを実現していきます。

(多田信彦さん)
作成するとしたら自分も含め沢山の人の視点から、見やすかったり使いやすかったりするものを作りたいです。

(山岡優さん)
今回の入賞は、自分たちがこだわったアイディアをソフトウェアで実現し、うまく伝えられたからではないかと思います。今後も引き続き誰でも使える、特に初心者でも使いやすいソフト(あるいはWebアプリケーション)を作っていきたいと思います。具体的な構想は、大学に進学して実現の可能性も含めて考えていきたいと思っています。今、iPhoneなどのApple製品が普及して人気を得ている理由は、「使いやすさ」を念頭に置かれて開発されているからではないかと気が付きました。私たちが今回取り組んだ「高機能を捨てて、使いやすさにこだわる」路線は間違っていなかったように思います。これからもその路線を忘れることなくユーザー目線でソフトを開発していきたいと思います。

― プレゼンテーションをしていただきましたが、そのときの心境はいかがでしたか?
(川北耀平さん)
他の発表者の方も上手で緊張しました。しかし、今まで発表してきた経験も練習してきた自信もあったので堂々と発表するように心がけました。

(多田信彦さん)
私の担当分野には質問は来なくて練習で頑張った意味がなかったような気がしました。ちょっと悲しかったです。・・・

― そんなことはないですよ。質問する必要がないほど、皆さんの発表のクオリティが高かったと実行委員の皆さんも仰っていましたよ。山岡さんはいかがでしたか?

(山岡優さん)
プレゼンテーション自体に関してはおおむねトラブルなく進みましたが、審査員の皆様方の質問が鋭いものでありましたので、説明に時間がかかってしまい予定をオーバーしてしまった部分もありました。緊張はしていましたが、この最終審査会に選ばれている、出場している以上は、責任を持って堂々と発表しなければならないという意識が働き、それほど緊張することもなくスムーズに進められたように思います。最終審査会に出場できて、この場でプレゼンテーションができているだけでもすごいことなんだな、と自分に言い聞かせていました。

― プレゼンテーションの練習はしましたか?
(川北耀平さん)
私はマイクで皆さんに説明する役だったのでもちろん練習しました。今まで、多くの発表を経験してきましたが、大きなコンテストということで失敗できないプレッシャーがありました。操作に合わせて声を合わせる練習はもちろん、操作がうまくいかなかったときのシミュレーション、発表内容の暗記、発表機器に不具合が出た場合の対応の練習などたくさんの練習をしました。

(多田信彦さん)
メンバーの中でデザイン担当だったためデザインのことに対して答えれるようにメンバーや先生方にいろいろとアドバイスをもらいながら自分なりに練習しました。また、よく噛んでいたので噛まないように気を付けてました。

(山岡優さん)
かなり行いました。トラブルなくプレゼンテーションが進められるような準備を1週間前ぐらいから集中的に行い、発表の前日も遅くまで学校に残り、プレゼンと原稿の最終調整、質疑応答の練習を行いました。発表当日の新幹線の中でも練習を行い、緊張感を高めていました。結果的に、プレゼンテーション自体についてはトラブルなく進めることができたので満足しています。 私はプレゼンテーションは見る側の好奇心があるうちに始めて終わらせたいと考えています。長すぎてもダメ、くどすぎてもダメ。簡単すぎると説明不足です。その両方にも陥らないようなプレゼンテーションを作るのはとても難しいことでしたが、バランスのとれたプレゼンテーションになったと思っています。

― 実行委員の皆さんからコメントもいただきましたが、感想はどうですか?
(山岡優さん)
このソフトはユーザーインタフェース(UI)に徹底的なこだわりを持って最後まで開発をしてきましたので、その点について大きく評価をいただけたことは非常にうれしく思います。また、「販売できるレベル」という感想もいただきましたが、意見にもありましたように基本的なプログラム機能に関して不十分なところもありましたので、改良していきたいと考えています。プログラム内部でも、もっと効率的なアルゴリズムを実装することもできると思います。実行委員の皆さまからコメントを受けて、今後の課題に気づくことができました。

― 部活では、みなさんどのように活動されているのでしょうか。?
(山岡優さん)
基本的に和気あいあいと活動しています。今回のプロジェクトはお互いがお互いの能力を尊敬、尊重するという方針で開発に取り組んで参りましたので、修正すべきところがあればその分野に専門的である人、何かを思いついた人が改良を指示して、実際にその分野を担当している人が改良をする、そしてできたプログラムをフィードバックしてもらい開発に生かす、というスパイラルモデルの開発手法で開発しました。メンバー全員が自分の専門分野、役割を自覚し、自分に足りない部分は専門的な考えを持つ他人に頼る姿勢があったからこそ、このような開発ができたのではないかと思っています。

― 青葉の第2版を作成するにあたり、どのような点を意識して改良されましたか?
(山岡優さん)
普通のソフトであれば「バージョンアップ=機能を増やす」と思われがちですが、青葉では再び使いやすさの改良にこだわりました。青葉1の実用性についてメンバーで話し合っていたところ、「これは遅い!結果が出るのにこんなに時間がかかるのは話にならない!」という意見が出たため、まず「高速化」を念頭に置いた改良を行いました。その結果、実用に耐えうる高速化を行うことができました。
次に、ユーザーインタフェース(UI)の改良に目を付けました。内部処理としては青葉1の時点でほとんど完成していたので、UIの改良が使いやすさに直結すると考えました。もちろん内部処理が高速であることも大事ですが、それ以上にUIがきちんとしていないと使いやすいソフトにはならないと考え、高齢者でもセルの文字が読みやすいよう拡大バーを設置したり、できるだけ多くのセルを表示して効率性を高められるよう、アイコンを操作性に影響のない範囲で小さくしたり、上下に分かれていたアイコンを上部に統一したりするなど、ドラッグアンドドロップを行う際のマウスの移動距離にまでこだわった細かなUI改良を重ねました。

― 今回、U-20プログラミング・コンテストに応募するにあたり、顧問の先生からどんなアドバイスをもらいましたか?
(山岡優さん)
「U-20プログラミング・コンテストは全国最高峰のコンテストであるので、気を抜かないように」というアドバイスを頂き続けました。気を抜かないようにというのは、「ごまかすな」ということだと思っています。本当にユーザーが必要としている機能を、実装する。もしその機能が技術の未熟さで実現できなかったとしても、代替の方法を使ってでも実現をする。今回最大限その努力をしましたが、開発が間に合わず実現できなかったところが出てしまいました。今回力不足であった私たちの反省点として、今後に生かしていきたいと思っています。

― 改良に改良を重ねた結果が今回の受賞につながったのですね!皆さん、ありがとうございました。






― 作品作りにあたっての指導方針・気を付けていることはございますか?
私どもの活動は、資格取得、情報処理競技会への挑戦、作品制作で、この3分野をバランスよく経験し、知識を定着させ、それを実践力にかえて、情報処理の学習の意義を再認識させ、仲間とのコミュニケーション能力の必要性や礼儀やマナーの重要性などに気付かせる取り組みだと思っています。あくまで教え諭すのではなく、自分の経験で気づいてもらうことがポイントです。作品制作は、平成17年から挑戦をはじめました。これまでの卒業生から受け継いだノウハウを生かし、ようやく憧れのU-20プログラミング・コンテストに挑戦し最終審査に出場することができました。作品制作に関して言えば、これといった指導方法を確立しているわけではなく、濃い霧の中を手さぐりで進んでいるような状態です。これが指導方針だ!といったカッコいいものはありません。ただ、一点だけ挙げるとするなら、「バカになってとことん向き合う」「徹底的にこだわる」ということでしょうか。

― 青葉の第2版の作成(改良)にあたってはどのようなアドバイスをされましたか?
青葉は、日本語にこだわった表計算ソフトです。ですから、徹底的に日本語表記にこだわるようにアドバイスしました。例えば、グラフの描画処理では、グラフを日本語で表現するには何が適当かといった議論までしました。日本語にかえることで逆に分かりにくくなっても困りますから、小学校の算数の教科書でどのように表現されているかを参考にするなど、「バカになってとことんこだわる」雰囲気が自然とチームに生まれていました。
アドバイスをしても、生徒はこだわって作っていますから、すんなりと受け入れないこともあります。しかし、別の友人が指摘するとすんなりと聞き入れたり、いつの間にか、もっといいアイディアを提案してきます。正面から向き合い意見を述べ合う。生徒もなかなか引き下がりません。もちろん、私も引き下がりません。そこが作品制作の醍醐味でもあります。

― U-20プログラミング・コンテストに、一言お願いします。
プログラミングで作品を作るという活動は、「正面から取り組む姿勢」を学ぶということです。それは、友人や家族との関係を見直すことであったり、社会の問題に向き合うことであったりします。そして、最後は自分自身に向き合うことになります。U-20プログラミング・コンテスト団体部門は、単なるすごい若者を発掘するコンテストではありません。挑戦を通して人間的に成長するきっかけを与えてくれる大会です。そして最終選考会出場が全国の高校生コンピュータ部員の憧れの場になるように、ますます発展する事を願います。

― ありがとうございました。